
ヘルニアの手術と聞くと、メスで背中をバサッと切り裂いて、のこぎりで背骨をゴリゴリ削るイメージがありませんか?
ヘルニア手術には2つの誤解があります。1つは「ヘルニアは手術をしないと治らない」ということ。もう1つは、「手術をすると何週間も入院しなければならない」ということです。
しかし実際にはヘルニアで手術にまで至る人はごくわずかです。また、最新の手術方法では日帰りも可能になるほど、患者への負担が軽くなってきています。それでも、手術をしないに越したことはありませんよね。
ここでは、ヘルニアの手術の種類について解説し、日常生活でできることをまとめてみました。
目次
ヘルニアで手術にまで至る人はごくわずか
2005年「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」によれば、日本では、人口の約1%が腰椎椎間板ヘルニアを抱えていると言われています。なんと単純計算で1300万人もの人がヘルニアということになります。しかし、手術にまで至る人は人口10万人当たり年間46.3人だと言われています。
ヘルニアの治療には、一般的に手術以外の「保存的療法」がおこなわれます。これは、鎮痛剤や理学療法を取り入れながら患部を安静に保ち、自然治癒をうながす治療法です。
多くのヘルニアはこれで改善しますが、保存的療法を3ヵ月続けても効果がない場合や、激しい痛み・運動障害などがみられる場合は手術療法が選択されます。
最新の手術方法では日帰りも可能
主な椎間板ヘルニアの手術方法とそれぞれの特徴についてご紹介します。
椎間板ヘルニアの主な手術方法一覧
手術名 |
術式 |
麻酔 |
入院日数 |
傷の大きさ |
保険適用 |
LOVE法 |
切開手術 |
全身 |
1~3週間 |
5~6cm |
あり |
PN法 |
切開手術 |
局所 |
日帰り~5日 |
5~6mm |
あり |
MED(メド)法 |
内視鏡手術 |
全身 |
1~2週間 |
1~2cm |
あり |
PED(ペド)法 |
内視鏡手術 |
局所 |
日帰り~1週間 |
5~6mm |
あり |
PLDD |
レーザー治療 |
局所 |
日帰り~1日 |
針穴 |
なし |
椎間板ヘルニアの手術では、飛び出したヘルニアを取り除く作業をおこないます。
手術方法はさまざまで、施設ごとに異なる名称を使っていることもありますが、一般的な手術法としては今のところ上記のようになっています。
なお、入院日数や傷口の大きさはあくまでも目安ですので、病院によっては異なる結果になることもあります。
LOVE法
従来の全身麻酔による切開手術です。現在でも約7割の手術でこの手法が使われています。
施術できる医師が多く、経済的負担が軽いメリットがある反面、傷口が大きく入院が長くなるデメリットがあります。
しかし、最近では顕微鏡を使うことにより切開部分を小さくする「マイクロラブ法」も徐々に増えつつあります。マイクロラブ法の場合、入院期間は1週間~10日程度になります。
PN法
体への負担が少なく、日帰りも可能な手術法です。
局所麻酔をかけて4mmほどの管を椎間板に差し込み、特殊な器具で髄核を吸い取ることで神経にかかっていた圧力を下げます。
保険も適用されて人気の高い手術法ですが、高度な技術を必要とするため、どの施設でもできるわけではありません。
MED法(脊椎内視鏡視下手術)
LOVE法の手術内容を、内視鏡を使ってモニターを見ながらおこないます。
傷口が小さく、入院期間が短いのが特徴です。メリットが大きいことから、近年急速に普及してきています。かつては技術不足などが心配されていましたが、治療実績数が上がっていることから、施術できる医療施設が増えてきています。
PED法
MED法よりもさらに細いスコープを使う内視鏡手術です。スコープは直径2mm、内視鏡は最大でも8mm程度です。
早ければ日帰りも可能なほど体への負担が少なく、保険も適用される手術方法です。しかし高度な医療技術と設備が必要なため、専門医が全国でもまだ少ないのがデメリットです。
PLDD法
飛び出したヘルニアの中央部にレーザを照射して焼くことで、神経への圧力を下げます。
傷口が非常に小さく、手術してすぐ徒歩で帰ることも可能です。
ただし再発率が高いなど効果が安定しないことから、日本整形外科学会はこの手術法に否定的な立場を取っています。手術代も保険が適用されないため高額になります。
手術になる・ならないの分かれ道とは?
医療技術の進歩で、思っていたほどヘルニアの手術は大変ではないことが分かりました。しかし、やっぱり費用や仕事や家庭のことを考えると、手術を受けるのはなるべく避けたいもの。
ヘルニアになっても手術を受けなくて済むようにするには、一体どうすればよいのでしょうか?
保存療法をしっかりやることで手術を避けよう!
それは、ヘルニアの手術に至る前におこなう保存的治療をしっかりやることです。ヘルニアになったからと言ってすぐに手術になるわけではありません。3か月ほど保存的療法をおこない、どうしてもダメな場合にだけ手術をします。
保存的療法の内容は、「とにかく患部を休めること」です。痛めているのに、腰痛に効くからと無理なストレッチや筋トレをしてはいけません。なるべく横になるなどして腰に負担をかけないようにします。
必要に応じてコルセットやサポーターなどで補強します。痛みが強い場合は病院で鎮痛剤の処方やブロック注射をしてもらってもいいでしょう。仕事が忙しい人や、小さいお子さんのいる方は大変でしょうが、何とか周りの人の手を借りて体を休めるようにしてください。
家庭でのヘルニアの治し方は、こちらの記事も参考にしてください。
腰に良くない動作をしないように心がけよう!
また、普段から「腰痛に良くない動作」をしないように心がけることが大切です。次章で、ヘルニア悪化を防ぐためにやってはいけないことをリスト化してみてしたので、参考にしてください。
(※ただし、体質によってはどんなに保存的療法を頑張っても手術になってしまう人がいます。手術を受ける人が予防を怠ったという主旨ではないので、ご了承ください)
ヘルニア予防のための「やってはいけないことリスト」
日常生活では知らず知らずのうちに腰によくないことをやってしまっていることがあります。次のような動作や習慣に、心当たりはないでしょうか?
- いつも同じ姿勢でいることが多い
- かばんはいつも同じ片側にかける
- 片足に体重をかけるくせがある
- 猫背を指摘されたことがある
- 床に座るときはあぐらか横座りである
- 荷物は腰を曲げて持ち上げる
- パソコンやスマートフォンを長時間使用する
- 適正体重をオーバーしている
- 長時間車の運転をする
- 長時間のデスクワークで休憩を取らない
- 座っている時は足を組む
- 特に運動になることはしていない
- 柔軟体操が苦手
- 入浴時、前かがみで頭を洗う
- よくうつ伏せで本を読む
- よく寝そべって肩肘をついてテレビを見る
- 子供を勢いにまかせて抱っこする
思い当たるものが8個以上ある時は要注意です。無意識に背骨に負担がかかる動作や姿勢をしてしまっており、ヘルニアの発症や再発の恐れがあります。普段から気をつけながら、ひとつずつなおしていくようにしましょう。
まとめ
ヘルニアの手術と日常生活でできる予防法について解説してきました。
本日のまとめです。
- ヘルニアのうち手術まで至るのはごくわずか
- 最新手術では保険適用で日帰りが可能なものも
- ヘルニアの予防や再発防止には日々の動作や姿勢に注意が必要
昔ほどではないとはいえ、手術を受けるのはやっぱり大変です。正しい知識をつけて、普段から背骨に優しい生活をしていきたいですね。
(すきっと編集部/野田)
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