
お尻から足にかけてジリジリしたり、痛みやしびれがあったり、なんともいえない感覚に悩まされる坐骨神経痛。
古くはシェイクスピアの戯曲にも登場するほど有名で多くの人が経験している神経痛ですが、実は病名ではなく、坐骨神経が通る部位におこる神経性の不快な症状の総称なのです。
どのような症状が坐骨神経痛とよばれ、また何が原因でおこると考えられているのかをまとめました。
目次
坐骨神経痛の症状
坐骨神経痛の症状とはどのようなものがあるのでしょうか。感じ方には個人差があり、神経痛とはいっても、痛みよりもしびれやだるさ、違和感を強く感じる人も多いようです。
症状の出やすい部位
- 腰と骨盤の境目付近
- お尻
- 太ももの外側~裏側
- ひざの裏側
- ふくらはぎ全体
- 脚の前面部
- 足首、かかと、足先
- 排泄器官
坐骨神経は、腰の骨の下部から骨盤を通り、太ももの外側~かかと付近までを走る太い神経です。
坐骨神経痛は、坐骨神経の走る道筋におこる神経痛の総称なので、症状の出る部位は腰と骨盤の境目付近、お尻から足先にかけてが中心で、これらの部位の一部、または複数~全体に何らかの感覚異常がおこります。
しかし、坐骨神経は腰の骨である腰椎からつながっているため腰痛との関連が深く、腰痛と坐骨神経痛がセットになっている人が多く見られます。
さらにそこから範囲が広がって、腰と神経がつながる背中の上部にまで強い痛みを感じる場合もあります。
また、排泄に関わる神経が交わっているので、坐骨神経痛と同時におこる症状として、便秘や排尿障害、尿もれなどもあげられます。
症状の感覚
- ジリジリした痛み
- ピリピリした痛み
- じんじんした痛み
- チリチリと焼けつくような痛み
- チクチク刺すような痛み
- しびれ
- 力が抜けるような脱力感
- ダルさ
- じっとしていられないような気持ち悪い感じ
- 電気が走るような激痛
- 強くこっているような感じ
神経性の感覚の異常は、人によって感じ方が違い、また、原因や刺激されている神経の部位によっても症状の感覚が変わります。様々な感覚が重なって感じられる場合もあります。
主な症状
坐骨神経痛の症状としてよくあげられるものには、以下のようなものがあります。
比較的軽度
- お尻から足にかけてしびれるような感覚がある
- お尻、太ももの外側~裏側、ひざの裏側、ふくらはぎ、足首周辺のどこかにピリピリ、じんじんとした感覚がある
- 普段痛みはないが、お尻から足にかけて、電気のような激しい痛みが急激におこることがある
- 重いものを持つと、腰だけではなくお尻や足の方までが痛む
- お尻が痛い、またはダルくて長時間座っていられない
- 歩いているとお尻から足にかけてがしびれてくる、または脱力してくる、痛む
- 左右の下肢の筋力に大きな差があるように感じる
- 冷えたり雨が降ったりしたときに痛みやしびれが強くなる
中度~重度
- 安静にしていてもお尻から足にかけてがじんじんと痛む
- 痛みによって眠れない
- 少しの動作で足から腰、または背中の方まで強い痛みが走る
- お尻から足の脱力やしびれによって歩くのが苦痛
- 座っているのがたまらなく苦痛
坐骨神経痛の原因
坐骨神経痛の原因は、1つではありません。人によって原因は異なり、複数の要素が絡んで発症していると考えられる場合もあります。坐骨神経痛の原因としてあげられる、代表的なものをご紹介しましょう。
坐骨神経痛の原因としてあげられる要素
- 1.整形外科的な腰の異常によるもの
- 2.感染症や内科的異常によるもの
- 3.妊娠
- 4.姿勢、筋肉の使いすぎによるもの
- 5.仙骨の歪みによるもの
- 6.心因性のもの
整形外科的な腰の異常によるもの
整形外科の分野においては、坐骨神経痛は主に腰の異常によって引き起こされる症状の1つとしてとらえられています。
坐骨神経は腰の骨である腰椎の下部から足までつながっているので、腰椎に何らかの異常がおこり坐骨神経の一部を圧迫するようになると、坐骨神経の経路である部位に痛みやしびれ、脱力などがおこると考えられています。
坐骨神経痛を併発するとされる3大整形外科疾患
腰椎椎間板ヘルニア(ようついついかんばんへるにあ)
腰椎の骨と骨のクッション役である椎間板がやぶれ、中から髄かくが飛び出し神経を圧迫する疾患です。20代~40代の比較的若い層によく見られ、ヘルニアのおこった部位が坐骨神経に近いと、坐骨神経痛がおこりやすいと言われています。
若い人の坐骨神経痛は、ヘルニアと併発しているケースが多いと言われています。
脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)
腰椎は、平たい円柱状の骨が椎間板を挟んで縦に積み重なるような形状をしていますが、それらの骨には縦方向に貫通する孔(穴)があいていて、脊柱管と呼ばれるトンネルを形成しています。
脊柱管の中には神経や血管が通っているので、脊柱管が変性して狭くなってくると、神経や血管が圧迫され、腰や坐骨神経の経路に様々な症状を引き起こすと言われています。脊柱管が変性する主な要因は加齢によるものなので、50代以降の層に発症しやすいですが、他の要因からおこっている場合は、若い人にも見られます。
腰椎変性すべり症
腰椎に積み重なる骨の一部が何らかの要因で前方方向にずれ、神経を圧迫する疾患です。進行すると、脊柱管狭窄症を引き起こします。椎間板や関節の変性が原因と考えられ、中高年の女性に多いことから、ホルモンバランスとの関連が指摘されています。
感染症や内科的異常によるもの
神経が何かのウィルスによって感染し、その神経の経路に痛みやしびれがおこる場合があります。その際には発熱をともなうことが多くなります。また、腰周辺の臓器に腫瘍や何らかの異常があり、それが神経を圧迫刺激しているケースもあります。
妊娠
妊娠してお腹が大きくなってくると、どうしても腰に負担がかかり、筋肉が緊張したり、神経が引っ張られたりするので、坐骨神経痛がおこる場合があります。
姿勢、筋肉の使いすぎによるもの
腰のS字カーブが保てず、腰から骨盤にかけてが丸まるような座り方をする人は、周辺の筋肉に負担がかかり硬くなって、神経を圧迫してしまうことがあります。坐骨神経痛に悩む人は、お尻の筋肉がこっている人が多く、骨盤を立てた正しい座り方やお尻のストレッチが有効と言われています。筋力が弱ってくると腰が丸まりやすいので、適度なトレーニングも必要です。
反対に、スポーツや肉体労働などで腰回りやお尻の筋肉を酷使し、ストレッチやほぐしを怠っていても筋肉の硬直が進み、神経を圧迫することがあると言われています。
仙骨の歪みによるもの
仙骨は、腰につながる骨盤の中心部分になっている骨で、尾骨によって坐骨とつながっています骨盤の中心部分である仙骨が歪むことで、そことつながる坐骨神経が片方に引っ張られて緊張し、様々な症状をおこしているという説があります。
病院では一部の病院を除き、仙骨を扱うことがほとんどないので、仙骨に着目する接骨院、整体院などでの施術や、指導された運動を行い、正しい姿勢を身につけ、矯正していくのが主な対策となります。
心因性のもの
精神的ストレスの蓄積や、意識されていない抑圧された感情によっておこる腰痛が知られるようになりましたが、心因性の神経痛は全身におこる可能性があるので、それがたまたま坐骨神経に出る人もいます。
心因性のものは、痛みや症状の訴えに一貫性がなく、どこがどう痛いか、どういうときに痛いか、どういう感覚かが説明できずに、「とにかく痛い」「とにかく辛い」などの曖昧な表現になるケースが多いとされています。
坐骨神経痛の治療
坐骨神経痛はそれそのものが病気として扱われているわけではないので、病院では元になっていると考えられている疾患の治療と痛みへの対処療法を行います。
薬物療法
痛みを抑える消炎鎮痛剤、筋肉の緊張をゆるめる筋弛緩剤、血管を拡げ血行を良くする血流促進剤、ビタミン剤などが、状況に応じて使用されますが、どれも根本原因を取り除くものではなく、一時的に痛みを緩和させるものです。
心理的なもの、神経過敏によって痛みがおきていると考えられるケースでは、抗不安薬、抗うつ薬、脳の興奮をしずめる抗てんかん薬などが効果を発揮する場合もあり、整形外科や神経内科でも、そのような薬を処方することもあります。
理学的保存療法
坐骨神経痛の場合は患部を冷やすと痛みが強くなる傾向があるので、シップを使うときは温シップ、腰~お尻のホットパックなどが有効と言われています。辛い痛みは薬で緩和し、温めや運動療法で筋肉の血流や筋力アップを促していきます。
手術
坐骨神経痛の元になっている疾患が明らかで、画像診断で神経の圧迫が確認できた場合、手術という選択肢もあります。しかし、ヘルニアや脊柱管狭窄症を手術で治し神経の圧迫が取り除かれた後も痛みが残る人もあり、よっぽどの場合を除き保存療法で様子を見て、痛みの改善がまったく見られず著しく日常生活に支障が及んでいる人や積極的に手術を希望する人に関して手術が検討されます。
神経ブロック注射
神経ブロック注射は、脳に痛みを伝達する神経の道筋をブロックし、痛みを感じないようにします。痛みは、感じ続けていると周辺の筋肉や血管が緊張し、さらに痛みの信号が強くなる悪循環になってしまうので、一度痛みの伝達をストップさせてやることで痛みの増幅を防止できる場合があります。
大きな病院の整形外科、痛み専門のペインクリニックで受けることができます。
漢方薬での治療
坐骨神経痛には漢方による治療が効果を発揮することもあると言われていますが、どの漢方薬がいいかは個人の状態によって違います。漢方薬は、西洋薬の痛み止めや筋弛緩薬と違い、痛みに直接効くというより、痛みの原因になっている体質を改善することで治療していくものです。
冷えやすい、水がたまりやすい、神経が緊張しやすいなど、その人の痛みをおこす原因がどこにあるか、全身の体質なども考慮して使う必要があるので、漢方外来や漢方に詳しい医師、治療院などで相談の上、使用することが望ましいでしょう。
治療院での治療
病院以外では、接骨院、整体院、鍼灸院などの治療院での治療があります。坐骨神経痛は骨格の歪みや筋肉の緊張からおこる場合も多いので、手技でそれらをゆるめ、個人の状態に合わせた日常での運動などを指導して改善を目指します。仙骨矯正、筋肉の痛みにアプローチするトリガーポイント療法、ツボ治療、鍼灸治療など、その治療院によって様々な治療が行われています。
まとめ
下肢の不快な症状に悩まされる坐骨神経痛の症状と原因についてまとめました。坐骨神経痛が病気として扱われていないのは、坐骨そのもの、神経そのものに障害があるというより、別の何かが元となり、坐骨神経に影響を及ぼしているからと考えられているからです。
かつては、坐骨神経痛=ヘルニアの人、加齢によって腰に異常の起こった人の症状というイメージが強かったですが、最近、ヘルニアがあっても痛みを訴えない人や、若くて何の原因も見当たらないのに坐骨神経痛を訴える人が増えていることから、筋力の弱りや姿勢の悪さ、体のゆがみなどの生活習慣も大きく関わっているのではないかと言われています。
骨盤を意識して立てるようにすると、周囲の圧迫がとれて楽になったという人もいるので、ぜひ試してみてください。